相生古こぼれ話

相生古こぼれ話 地名の謂われや建造物、人物などの相生市内の歴史をお伝えする番組です
さて、今月はどのようなお話でしょうか

MC:    担当D:サッキ
配信日:毎月1回
  • 相生古こぼれ話114回「鯔網(いなあみ)出せぇ」 2024年4月21日

    相生古こぼれ話 第114回「鯔網(いなあみ)出せぇ」
    この番組は、地名の謂われや建造物、人物などの相生市内の歴史をお伝えする番組です。
    さて、今月はどのようなお話でしょうか

    ではお聞きください

    相生いにしえこぼれ話 第114回 「鯔網(いなあみ)出せぇ」

    相生の町で海の幸を語るとすれば、何といっても冬場の鯔網漁につきる。

    この町を取り囲む南の壁が遠見山で、そこでは相生湾を一望におさめられたし、

    瀬戸内海まで視界を拡げられた。

    ここには、季節になると、頂上付近に魚群の見張り台が設けられ、

    漁師たちが屯(たむろ)して見張りを続けていた。

    潮流に乗った鯔は、海の色を変えるまでの大群をなして湾内に入り込んでくる。

    見張りがこれを見逃すはずはない。

    港に待機する連絡員に知られるために、松の枝を大きく輪を描きながら振って、

    「鯔網出せぇぇ!」

    「イナアミ、ダセェェ!」

    と声を木魂(こだま)させた。

    この知らせを待ち受けていた浜では、待機中の漁師に集合がかけられ、

    舟の準備で一気に活気づく。

    出漁準備はあっという間に整えられる。

    そして二隻の網舟は、「エッサ、ヨイサ、エッサ、ヨイサ」の威勢の良い掛け声とともに、

    八丁櫓(はっちょうろ)が大きく撓って(しなって)岸壁を離れ、

    魚群に向かって突進していく。

    それはたいへん勇ましく、男ならではの世界が展開されるというものであった。

    この網舟に続いて数隻の伝馬小舟が続く。

    まさに母艦を軸にした艦隊が出撃する様であった。

    魚群に近づいた二隻の網舟はさっと別れて網を入れる。

    その網を手繰り寄せながら、二隻の網舟は再び相寄ってくる。

    引き寄せられる漁網の中には、銀鱗があやしく踊りだすのが見られ、

    ものすごい数の鯔の背びれ、尾びれが飛沫を跳ね飛ばし、

    人間と魚とのすさまじい格闘が繰り広げられる。

    網の中に踊る大量の鯔は、随伴してきた小舟の人たちによって長柄(ながえ)の丸網で

    面白いように掬い上げられると、無造作に舟の中に投げ込まれ、

    鯔で小舟が沈むかもと思われるまでそれほど時間はかからない。

    いち早く漁獲が伝えられた港では、受け入れ準備にてんやわんやとなる。

    魚市場には、早々と仲買人や魚屋が集まってくる。

    港に帰ってきた小舟が市場の岸壁に着くと、大きなザルいっぱいの鯔を

    屈強な漁師が二人で陸揚げしていくのである。

    見物する人垣からは、大ザルが通るたびに歓声が起こった。

    時には、その歓声に応えてくれたのか、故意に大ザルをひっくり返してくれることがあった。石畳に散乱する鯔を人々は争ってつかみ取りしたものであった。

     

    今回は江見錬太郎著「ふるさと想い出の記」より引用しました。

    相生いにしえこぼれ話、小河大助 がお届けいたしました。

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