相生古こぼれ話 第105回「ペーロンの日」

2022年5月29日、コロナ禍の影響で休止していたペーロンが3年ぶりに開催されることになった。
何とも待ち遠しいものである。

では筆者である江見廉太郎氏の思い出「ペーロンの日」をお聞きください

相生いにしえこぼれ話 第105回 「ペーロンの日」
 かつて5月27日は造船所の海上運動会としてペーロン競漕が行われた日であった。
その朝、造船所では、天白(てんぱく)神社での神事が終わると、
人々に担がれた神輿が表門桟橋まで出御(しゅつぎょ)する。
桟橋では、御座所(ござしょ)が設けられたペーロン船が二隻待機していた。
 神輿は、おごそかに御座所に移され、この御座舟(ござふね)を先導するもう一隻のペーロン船が、
鉦(かね)、太鼓の音を鳴らし始めると、三隻の神輿の船団は静かに動き出す。
 先導を務める舟には、前年のペーロン競漕の優勝チームが乗ることになっていた。
船首に優勝旗を朝風になびかせて、チームの面々は晴れがましい想いでこの務めに当たったのである。
 神輿は、対岸にある水月旅館前の桟橋で降ろされ、旅館内の御座所に遷座(せんざ)される。
そしていよいよ海上運動会の幕が切って落とされるのである。
 審判席や来賓席が特設されている水月旅館前の桟橋から、松の浦の地蔵岬への海岸、
又、これと向かい合う赤地浦(あかじうら)にかけての向こう岸には、
思い思いに趣向を凝らした応援船が数珠つなぎのように並んだ。
これらの応援船内には酒や弁当が用意されていて、競技にも応援にも熱がこもり、
この日一日を楽しんだのである。
 特に、応援するチームが勝利となると、こぶしを突き上げて喚声をあげ、
舟が狭く感じるほど盛り上がる。
それに応えて勝利したペーロン船が応援船に近づいてきて、
エールを交換するといった風景を見せたものだった。
 当時、チームは、造船、造機、事務と分かれたえり抜きの選手によって構成され、熱戦が展開された。これまでの練習の成果をこの一日に掛けたのである。
 戦いが終わり、優勝チームには優勝旗が渡され、それを船首にかざして
海上のデモンストレーションが行われ、海の祭典の幕を閉じることになる。
 そして、選手や応援の人々もそれぞれに引き上げ、先ほどまで興奮の波に沸いた海は、
まるで夢であったかのように元の静けさを取り戻し、
明るい初夏の陽光にきらめくだけになるのである。

今回は江見錬太郎著「ふるさと想い出の記」より引用しました。