狐に化かされたりタヌキに化かされたり昔はよく聞いた話ですが、最近は自然では狐もタヌキも見なくなりました。今回は狐に化かされそうになった幸兵衛さんの話です。
~sakki談~
話の中に出てくる佐方や千尋は今でも存在します。今、存在する場所を思い浮かべながら話を聞くと面白いですね。
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相生古こぼれ話第81回「天白狐の仇討ち」
建武3年(1336年)春、赤松則村(あかまつのりむら)は数多くの家臣を引き連れ、
古来からの慣例に従い、佐方野で狩りを催した。その時高取峠の岩かげより天白と称するつがいの老白狐が飛び出し、家来が追いかけて雄の白狐を射止めた。それより雌の白狐が塩乃谷地蔵坂や女郎鼻に現れて室津の遊女に化け、しばしば通行人を佐方川に引き入れるいたずらをするので「天白の女郎狐」といって村人はおそれていた。
「おい、甚吉っあん。川尻のほうを見てみい。なにやらマイマイコンコンしとるがな」春の月夜の夜に、二人は仏様の出た千尋の家で酒をふるまわれ、事がことだけに酔っぱらう程もなくしゃべりながら帰っていた。
川のあたりまで来たとき、灯籠をマイマイコンコンしている方へ差しだし驚いた。
「幸兵衛さんなにしとるんや」と二人は同時に声をかけた。幸兵衛さんはそれでもまだきょとんとした顔をして、いつもの苦労人の表情ではなかった。甚吉っあんは近づくと背なかをどやした。
正気に戻った幸兵衛さんはなんとも言いようのない表情で話した。
遠縁の娘の縁結びの話のためオオまで出向き、一杯よばれた。泊まって行けと勧められたが、それを聞かずにここまで戻って来た。ヤレヤレと思ったせいか、すっかり酔い機嫌になってしまった。ひょいと前を見ると綺麗なおなごはんが手招きするので近づいていくと、スット遠のく。また近づくと、スット遠のく。ついつい後を追って川へ入っていきかけたところだったと。
ちまたの噂では雌の白狐が塩乃谷地蔵坂にでて人を化かすと聞いていたが、佐方川まで来たのかと三人のほろよい気分が一遍に吹き飛んだ。
現在の様な日夜も違わぬ光の中の生活と異なり、夜のとばりがおりると百鬼横行、霊魂やたたり、因果応報を信じた時代には、狐やタヌキに化かされた話など日常茶飯事のごとく話題に事欠かなかった。合理主義を貫こうとする今の時代にはいとも滑稽な話であるが、夢も希望も薄れた悲しい世の中に生きる人たちよりなんと人間的な趣を味わうことができた時代であっただろうか。
(相生らじお「古こぼれ話」は見えるらじおを目指しています)